吉田欣吾前会長からのメッセージ
東海大学文明学会の前身となる東海大学文明研究会は1982年に設立されています。それからさらに四半世紀ほどさかのぼる1959年には東海大学に文明研究所が設置されました。また1965年には文学部に文明学科が新設され、さらに1974年には大学院文学研究科文明研究専攻に修士課程が、そして2年後には博士課程が開設されています。このように東海大学において「文明」というものが特別な地位を占めていることは、創設者である松前重義博士の次の言葉にもよく表れています。
東海大学は21世紀に向かう総合文明の建設者たる人材を輩出しなければならない。同時にまたわれわれはより明るい平和な高度の新文明に向かって邁進しなければならないのである。新文明即ち、総合文明の建設に向かってその開拓者として先頭に立って前進せんとするものである。(『その後の二等兵』)
我々が21世紀の世界に住むようになってから早くも20年近くが経とうしている現在、依然として「文明」という言葉は重大な問いを我々に投げかけています。「文明」という言葉が否定的な意味を込めて語られることがますます増えている現在、だからこそ「明るい平和な高度の新文明」とはどのようなものであるべきなのかを考えることが求められていると言えるのかもしれません。そのような意味からも、「文明」という言葉を冠した組織の担うべき役割はますます重大なものとなっています。
東海大学文明研究会は1987年に現在の東海大学文明学会へと発展しました。その時点から30年以上を経る中で、我々は新しい千年紀へ突入し、20世紀から21世紀へという世紀の交替を経験しました。それはただ単に時計の針が進んだというだけではなく、我々を取り巻くあらゆる状況に大きな変化をもたらしました。まるで独り歩きをするような科学技術の「発展」、その発展に取り残され機能不全に陥ったかのような社会、その中で思考停止となることに対する恐怖と誘惑とに立ち向かわざるを得ない人間、そのような状況の中で果たして「明るい平和な高度の新文明」が生まれるなどと希望に満ちた態度を取り続けることができるでしょうか。
東海大学文明学会の目的は大きく二つに分けられます。一つは学会が文明研究を発展させようとする研究者の交流の場となることです。そして二つ目の目的は、東海大学文学研究科文明研究専攻の大学院生たちとともに学びを進め、そして彼ら/彼女らの研究を促す場となることです。どちらの目的にも共通していることは、それらが希望を生み出すことにつながるという点です。文明研究を通じて現在と未来に希望を見出す方法や道筋を探り、そして何より大学院生に対する教育は将来の世界に向けて希望の種をまく重要な作業だと言えるでしょう。多くの方々が文明研究の輪に加わり、また大学院生の教育を通じて将来の世界に希望をもたらす作業に参加していただくことを望んでいます。